<はじめに>

「その衣装、自作なの? すごいね!」

そう声をかけられることがよくあります。 たしかに嬉しい言葉ですが、心の中ではいつも少しだけもどかしさを感じています。

私が自作を選ぶ理由は、「すごい」と言ってもらうためではありません。 もっと静かで、根の深い動機があるのです。

1. 市販品は悪くない。でも私は向いていない

市販衣装の良さは、誰よりも理解しているつもりです。 着るだけでキャラクターになれる。手間も時間も大幅に省ける。

でも私は、「それを着ても自分の表現にはならない」と感じてしまいます。 同じものを何人もが着ているという状況の中で、自分の想いや解釈をどう反映させられるのか。 それを考えると、どうしても“自分で作りたい”という選択に戻ってしまうのです。

2. 作ることでしか伝えられないことがある

衣装を自作するということは、ただ布を縫い合わせることではありません。 布選び、型紙の調整、構造の補強、模様の表現…… そのすべてに、「自分はこのキャラクターをどう理解し、どう表現したいか」が込められます。

言葉で語ることが苦手な私にとって、それが唯一無二の自己表現でもあります。 そして、見てくれた人が「なんかこの衣装、空気が違うね」と気づいてくれたとき、 初めて伝わったような気がするのです。

3. “衣装も表現の一部”という考え方

コスプレとは、ただ「そのキャラっぽくなる」ための手段ではなく、 「自分なりの解釈を重ねてキャラと向き合う」表現だと私は思っています。

市販衣装ではなく、自作を選ぶことは、その表現の一環なのです。 自分の手で形をつくり、素材を選び、縫っていくなかで、 衣装がただの服から「語る存在」へと変わっていく。

それが楽しくて、私は今日もまた、布に向かっています。

4. 久しぶりに市販衣装を買って、後悔したこと

ホヨバ系のキャラクターは、形や模様がとても複雑で、ありがたいことに市販品も多く出回っています。 私も「たまには買ってみよう」と思い、スターレイルの姫子風衣装を2万円弱で購入しました。

ウィッグと靴さえ用意すればすぐ使える──そう思って届くのを心待ちにしていました。 幸いにも発送はとても早く、注文から3日以内で到着。 ですが、箱を開けた瞬間に、がっかりしてしまいました。

形や色味は一見よくできているのに、体へのフィット感がなく、特にウエスト周りがかなり大きめに作られていました。 姫子のような“体にぴったり沿う美しさ”が大事なキャラでこれは致命的です。

仕方なく、重なった赤と白の布を一度ほどいて、自分の体型に合わせて縫い直しました。

ジャケットに至っては、ペラペラのプリント用生地に不織布の芯、サテン裏地だけの構成。 これを着て「完成品」とするには、正直抵抗がありました。

そこで、表地と裏地を丁寧にばらし、構造を見直すことに。 すると驚いたことに、縫製は波縫い一周のみ、ロックミシンすら使われていなかったのです。 ほころびが出れば、すべてがほどけてしまうような作り。

プリント生地は捨てて型紙としてのみ使用し、素材探しからやり直しました。 最終的に選んだのは、キャラヌノ様の平織レーヨン厚手ポリエステル生地。

さらに、プリントではただの線だった部分も、ゲーム中では「折り目」であることが判明。 それならばと、設計からやり直し、すべての折り目を丁寧に再現しました。

手間もお金もかかりましたが、ようやく納得のいく仕上がりとなり、今では「いつでも持ち出せるお気に入りの一着」になっています。

<おわりに>

「自作が偉い」「市販がダメ」という話ではありません。 むしろ私は、衣装を買って堂々と楽しんでいる人を見ると、とても素敵だなと思います。

でも、私自身が誰かと関わるときには、 「自分はこういう想いで衣装を作っている」ことを、少しでも知っていてほしいと思っています。

軽く「すごいね」と言われるよりも、 「どんなところをこだわったの?」と聞いてもらえたら嬉しい。 それが、私にとって何よりの励みです。