<はじめに>

「写真に映ってないなら、やらなくてもよかったのでは?」 そう言われることが、たまにあります。

でも私は、たとえ写真に映らなくても、“そこにある意味”を信じて衣装を作っています。 今回は、そんな「目立たないけど、見せたかった」こだわりについて、いくつか記録として残しておこうと思います。

1. 素材の選び方で変わる“空気感”

たとえば同じ黒でも、マットなもの・光沢のあるもの・織り模様のあるものでは、 カメラに映る印象がまったく違います。

遠目で見たときの質感、光の入り方、キャラクターが持つ雰囲気に合うかどうか。 そうした要素を踏まえて、実際に照明を当てたり、写真を撮ったりしながら、素材を選んでいます。

写真に撮ると「ただの黒い服」に見えるかもしれません。 でも、その服にだけ宿っている“空気”が確かにあると、私は思っています。

2. 光と影を計算した構造設計

布の光り方は、縫い方や角度、厚みで変わります。 私は、どこにどんな光が当たるかを想定して、布の向きを調整したり、立体感が出るように重ねたりしています。

たとえば裾の模様。 ただプリントするだけではなく、光が差したときに立体的に浮かび上がるように、 別布で重ねたり、厚みを持たせたりしています。

真正面から見たら気づかれない。 でも、少し角度が変わったとき、「あっ」と気づいてもらえるような仕掛け。 それが、私の好きな“見え方のデザイン”です。

3. 動いたときに“語る”布

布は、動いてこそ語るものだと思っています。 風になびいたときの重みや流れ、布同士がぶつかったときの立体感。 そういった要素を含めて、私は衣装を「動く設計図」として考えています。

静止画ではその一瞬しか見えないけれど、 実際に着て歩いたとき、走ったとき、ポージングをしたとき、 思い描いた“動きの美しさ”が表現できていたら、それだけで報われた気持ちになります。

<おわりに>

見えない工夫。気づかれないかもしれない設計。 それでも、私はそういった部分にこそ力を注ぎたいと思っています。

衣装のすみずみまで気を配ったとき、作品全体の“空気”が変わるからです。

誰にも伝わらないかもしれない。でも、誰か一人にでも「なんか良い」と感じてもらえたら、 その感覚は、きっと伝わっている。

これからも私は、そう信じて、見えないところにこそ心を込めていきます。