テーマ: 既製品と自作の“温度”のちがい
既製品の利点と落とし穴:現場で起きること
手早く形をそろえたい気分で、市販の造形キットに手を伸ばす。精度は高く、外観の統一感も申し分ない。まずそこで助けられる。
助かる点の整理
- 短時間で外観を成立させられる
- 仕上げの表面が均質で撮影映えしやすい
- 共通規格のパーツで組み替えが容易
それでも現場に立つと、別の顔が見えてくる。イベント規約*に触れる硬質素材*だったり、装着側の取り付け点が想定衣装と合わなかったり、輸送でパーツ欠品が起きたり。
現場で遭遇した例
- 鋭角エッジが規約非対応で養生が必要に
- 重量過多で肩ベルトが延び、姿勢が崩れる
- ボルト位置が衣装の縫い目と干渉し固定不可
- 輸送中にジョイントが緩み、小ネジが欠品
急場しのぎのテープや緩衝材で回避はできる。けれど、帰路につく頃には「次は運用から設計したい」と静かに思う。
自作という運用設計:分割・被覆・軽量化
目的地から逆算する気持ちで、最初に運用を書く。搬入経路、ロッカー寸法、装着手順、撤収時間。ここに合わせて分割構造*と被覆*と軽量化*を決めていく。
分割の設計
見た目の稜線に合わせて2〜3分割。継ぎ目は装飾の陰に隠す。締結はボルトと継ぎ棒、マグネットのハイブリッドで、片手で確実に位置決めできるようガイドを仕込む。
被覆と安全
硬い芯材にはウレタンで被覆し、角を落とす。触れた手に驚きが出ない柔らかさにする。外装は塗膜で統一感を作り、衝撃では塗膜が先に割れて内部を守る構造に。
軽量化の勘どころ
厚みは必要な場所にだけ与える。見えない面はハニカム状に肉抜き。運搬ケースごと総重量を計算し、持ち替え回数で疲労を平準化する。
修理できる道具は強い:学習が手に残る
会場の隅で小さなトラブルに向き合い、落ち着いてツールポーチを開く。自作で統一したネジ規格なら、六角一本で全箇所に届く。
即応の手順
- 症状を観察 → 応力経路を推定 → 締結・補強・逃がしの順で処置
- 消耗部は現場交換式にし、スペアを同梱
- 修理後は型紙と設計図に反映して次の制作へフィードバック
触って直した回数が、そのまま次作の完成度に変わる。学習が手の動きに沈殿して、設計の初速が上がっていく。
“温度”の正体:手で作ることの意味
素材棚の前で迷い、切って貼って待つ時間に耳を澄ます。手の中で変化する重さと剛性、表面の摩擦、塗膜の硬化。そこに温度が宿る。
愛着の生成
使うほどに表面は更新され、内部は最適化される。ボクにとって自作は「作品」でありながら「道具」でもある。直せることで、さらに使い込みたくなる。
用途のちがいを受け止める
既製品は均質と再現性に強みがある。撮影専用や短期使用には相性がいい。自作は運用前提と更新性に強みがある。どちらも前提が合えば美点が立つ。否定で終わる話じゃない。
結び:だからボクは自作を選ぶ
限られた環境に視線を落とし、手持ちの素材を磨き上げる。高価な素材や3Dプリンタ*に頼り切るのではなく、現場からの要請に設計で応える。思想としての自作を、ボクは静かに選ぶ。
ここまで読んでくれたなら、次は設計の具体へ進もう。観察を図面に移し、分割と締結を決める手順について話す。