テーマ:衣装づくりの原点と下準備の哲学
始まりの気配:観察が生む構造の予感
目が止まった瞬間、ボクの中で何かが動き出す。
「作りたい」と思う気持ちは、どんな理屈よりも先にある衝動だ。
観察はその衝動を形にするための最初の行為であり、構造を見抜く入口でもある。
ただ眺めるだけではなく、「なぜこの形なのか」「どんな動きを想定しているのか」を探ることで、布の裏側に隠れた意図が見えてくる。
素材を見る目:下準備という哲学
手を動かす前に、ボクは必ず素材を触る。
安い布を選ぶことよりも、「ここはこうでしょ」と思える確信のある選択をしたい。
その一手間が後の自由を決める。
布の重さ、光の反射、針の通り方──観察を重ねるほどに、素材は語りかけてくる。
下準備とは、単なる前段階ではなく、創作全体の方向を決める哲学そのものだ。
動作に宿る美学:裁ち・縫い・整える瞬間
ハサミを入れる音に集中すると、空気が静まる。
裁つ、縫う、アイロンをかける──この繰り返しの中に、理想の形が息づいている気がする。
一見単純な動作にも、緊張と緩和がある。
手が覚えるリズムは、教本では語られない身体の知恵だ。
この動作の連なりの中に、衣装づくりという行為の美学が宿る。
備えと慎重さ:布が足りなかった日
一度、布を足りなく見積もったことがある。
完成目前で手が止まり、代用布を探して夜を明かした。
その経験は、ボクに備えと慎重さの意味を教えた。
創作の現場では「もう少し多めに」が、時に最大の保険になる。
失敗の記憶こそ、次の工程での判断を支えてくれる。
創作は自由の道:正解は自分の中に
どんな教科書も、道しるべのひとつにすぎない。
「正解」は誰かの手の中にはなく、自分の試行錯誤の中にある。
観察し、考え、確かめる。
その過程のすべてが、自由の練習だと思っている。
自由は無秩序ではなく、理解の上に成り立つ秩序の延長にある。
結び:衣装づくりの“始まり方”をもう一度
観察から始まる衣装づくりは、何よりも自分を知る行為だ。
他人の基準よりも、自分の中の理想を信じること。
その信頼が積み重なるほどに、手の動きは迷いを減らしていく。
次章では、そんな「観察の手」を支える道具と色の話に触れたい。
*注釈:布の性質や構造の理解は「裁縫工学」や「素材学」などの分野に通じる。
参考リンク:日本規格協会(JSA)