読了目安:約6〜7分 テーマ:乾燥と忍耐が塗装を変える話
はじめに
塗装を始めた頃、ボクは「塗る技術」がいちばん難しいと思っていた。
でも、いろんな素材に色を置いてきた今なら言える。塗装の本当の山場は、筆を動かす瞬間じゃなくて、何もしない時間にある。
果報は寝て待て。この言葉は造形にもそのまま効く。触らないことは、ただの我慢じゃなくて、ひとつの技術だった。
▶ 先に全体像から整理したい人へ:用途で考える塗装の話
塗ったあと、なぜ触ってしまうのか
乾いているか確かめたい衝動
塗り終わった直後、指先が勝手に動きそうになる。乾いているか触って確かめたくなる。
でも、触った瞬間に跡がついたり、指紋が残ったりするのを何度も見てきた。塗装の失敗って、だいたいこの一瞬に詰まっている。
焦りが作品を壊す
仕上がりが気になるほど、早く続きを進めたくなる。その焦りが、何層にも塗り重ねた色を台無しにする。
この繰り返しが、ボクに「触らない技術」を叩き込んだ。
触らないという作業
忍耐は塗装の一部だった
塗装は、塗る→触らない→待つ→塗る、の繰り返し。その中で、いちばん負荷がかかるのが「待つ」の部分だった。
筆を握っている時間より、手を離している時間の方が長いなんて、当時のボクは想像していなかった。
「触らない」を成立させるための小さな工夫
触らないって、気合いだけだと負ける。だからボクは、負けないための仕組みを作った。
- 乾燥中の置き場所を決める(机の端、棚の一段、床に置かない)
- 「触らないゾーン」を作る(乾燥中のものは視界の外に逃がす)
- 代わりの作業を用意する(次のパーツの下処理、道具の掃除、混色メモなど)
- 触っていいテスト片を用意する(端材に同じ塗装をして、そっちだけ触る)
触らないために環境を整えると、「待つ」が少しだけ作業になる。
果報は寝て待ての意味が変わった瞬間
ある時、塗った太刀をベランダで干しているとき、触らないために袋をかぶせ、風で飛ばされないように洗濯ばさみで吊った。
あれはただの乾燥時間じゃなくて、作品を見守る時間だったのかもしれないと今は思う。
何もせずに待つことが、塗装にとって「働いている」ことだと気づいた。
触らないことが生む変化
仕上がりに余裕が出る
触らない時間が増えると、失敗が減るだけじゃなく、仕上がりに落ち着きが出てくる。
重ね塗りが綺麗に進むと、最初の焦りが嘘のように感じられた。
自分を見る時間にもなる
触りたい衝動、確認したい不安。その全部が自分の癖だった。
触らないことは、作品より自分の焦りと向き合う時間だったんだと今は思っている。
おわりに
塗装でいちばん難しいのは、塗ることじゃなくて触らないこと。
果報は寝て待て──この言葉の意味は、「何もしていないようで、作品にとって最も大事な時間がある」という経験と結びついた。
塗ったものをそっと置いて、しばらく見守る。それができるようになると、塗装はぐっと楽になる。
この話は、素材を見る癖や、塗装全体の順番(下地→塗装→仕上げ)にも続いていくので、よければ次の記事でその続きを深めてみてほしい。
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Notes
- * ここでいう「乾燥」は、水性塗料・スプレー・アクリル系など、塗膜が安定するまでの待ち時間の総称(種類ごとの癖は派生記事で整理予定)