読了目安:6〜8分/テーマ:試作と崩壊の工程
はじめに
設計が見えてきたと思った頃から、本当の地獄は始まった。紙の上では理解できても、実際に布を縫うと形は別の方向へ崩れていく。開拓世界で自分さえチップにして運命を開拓するギャンブラーのジャケットは、再現すればするほど破綻しやすい服だった。
ここでは、その“崩れ続ける試作”と向き合った時間を書いていく。
模様のズレとの戦い
縫うたびに少しずつ狂っていった
裾の孔雀模様は、設計段階から難しいとは分かっていた。でも、実際に縫ってみると想像以上に厄介だった。線が細いため角度のズレがすぐに表に出てしまい、縫い合わせるたびにシルエットが膨らんでいく。
原因は布の張り、縫いしろの方向、そしてほんの数ミリの誤差。歪んだ模様を見るたびにほどき、角度を調整しては縫い直す。何度やっても、次の縫い合わせでまた少しズレる。
“終わりが見えない”という言葉を、このとき初めて強く感じた。
ストレッチ素材の穴問題
縫い直すたびに素材が減っていった
ライン部分には伸縮性のある生地を使っていたが、ストレッチ素材は一度針を通すと穴が残る。縫い直したときにその穴が表に出てしまえば、もう誤魔化せない。
やり直すたびに生地を少しずつ切り詰め、気づくと最初に買った量がもう残っていない。新しく買い足した布と最初の布で微妙に質感が違うことに気づいた瞬間は、本当に焦った。
どのラインも“ここで失敗したら終わり”という緊張感の中で縫っていた。
装飾パーツの固定方法が見つからなかった
どう取り付けても安定しなかった
ジャケットの側面には、スペードの先端のような輪があり、そこにクローバー型の造形パーツを引っかける構造になっていた。しかし、この部分の取り付け方法がどうしても分からなかった。
縫うとズレる。貼ると取れる。金具を使うと重すぎる。試すたびに失敗し、やり方を見失いかけた。
最終的には、EVAボードをストレッチ生地で包み、ジャケット側に無理やり縫い込んだ。強度は十分ではなく、今でも外れる可能性がある。それでも、この方法しかなかった。
試作が積み上がり、崩れていく
正解のない作業を続ける感覚
試作は、見た目以上に消耗する作業だった。ズレた模様、伸びてしまった生地、合わないパーツ。積み上げたものが、次の試作で簡単に崩れる。
でも、完全な失敗というものはなかった。どこが悪かったのか、どこを変えれば近づくのか。小さな発見だけが前へ進む唯一の手がかりだった。
“失敗しかしていない”という気持ちは嘘ではない。でも、その失敗の層が厚くなるほど、ジャケットの形は少しずつ固まっていった。
少しだけ光が見えた瞬間
崩れ方の原因が分かると、形が安定し始めた
模様のズレは「縫いしろの向き」に、裾の膨らみは「布の重ね方」に、パーツの不安定さは「布の伸びる方向」に原因があった。それに気づいてから、試作は静かに安定していった。
一気に解決したわけではない。でも、崩れた理由が分かるだけで、前に進む速度は少しだけ早くなった。
おわりに
試作は終わりのない作業のように思えたが、失敗を重ねることでしか掴めない形があった。次章では、試作を越えたあとに訪れた“組み立て直しと完成への道”を語っていく。失敗の先で、ようやくジャケットの輪郭が確かなものになっていった。
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Notes
- * ストレッチ素材の針穴は、衣装制作における代表的な難所です。