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本記事は筆者 Yosure の創作経験と考え方に基づく記録です。 一般的なハウツーではなく、創作過程の共有を目的としています。

自分さえチップにして運命を開拓するギャンブラーの黒ジャケット制作記録

作成

読了目安:5〜7分/テーマ:黒ジャケット制作記録

はじめに

黒いジャケットに向き合い始めたとき、ボクはまず「見えている情報だけでは完成しない」という感覚を覚えた。開拓世界で彼がまとっていたものは、ただの黒ではなく、光と影と細工が絡み合う複雑な構造だった。既製品で済ませれば手間は省けたはずなのに、ボクはどうしても“自分の理想”に寄せたくて、ひとつの衣装としての物語を掘り下げることにした。

ここでは裁縫の手順ではなく、ボクがどう感じ、どこを見て、どう解釈して、この一着を作り上げたのか。その流れを静かに辿っていく。

黒との対話が始まったとき

第一印象が教えてくれたこと

最初に躊躇したのは柄だった。滑らかな黒の上に細く走る線、重なり合う光沢、奥行きのある陰影。のっぺりとした黒では足りないと感じた瞬間、ボクの中で“観察”が始まった。光を当てる角度を変え、スクリーンショットを何度も撮り、自分の目で「この黒はどう生きているのか」を確かめる作業を繰り返した。

黒の種類だけで、悩む時間が何度も積み重なった。重すぎると動かないし、軽すぎると安っぽい。艶が強いと上品さを失い、鈍すぎると彼らしさが抜けてしまう。そんなせめぎ合いが続いた。

素材を選ぶという、もうひとつの観察

黒の奥行きをどう作るか

生地屋に立ったとき、黒だけでも数えきれないほどの種類があった。触って、透かして、折り曲げて、光に当ててみる。まるで一枚一枚の黒が別の生き物のように振る舞う。

最終的に手にしたのは、深く沈むような光沢のある生地、角度によって翡翠色が浮かぶサテン、そして伸縮性のある素材の組み合わせだった。どれも単体では足りないけれど、重ねればボクの中にある“理想の黒”が組み上がる気がした。

重ねる順番にも気を使った。薄い布を丁寧に重ねていくと、表に少しだけ湿度のある艶が浮かび上がってくる。本来の黒とは違う、彼の黒に近い色になっていく過程が嬉しかった。

形を読み解く時間

装飾が語る“体の動き”を探す

前身頃の模様は、とにかく正体が掴みにくかった。線が細く、角度によって見える形が変わる。そのたびに「この線はどこから始まり、どこへ消えていくのか」を探した。スクリーンショットを拡大すると、時々想像していた形と違うことに気づく。その瞬間、調整してきた型紙をまた白紙に戻すこともあった。

裾に広がる孔雀のような模様も、一度では思い通りにならなかった。縫えば縫うほどズレていく。形が膨らみ、意図しない陰影が出てしまう。何度も縫っては解き、そして気づけば深夜になっていた。

失敗と修正の往復

ズレも穴も、全部が道しるべだった

伸縮する生地は便利な反面、一度針を通すと穴が残る。だから失敗すればするほど材料が減っていく。それでも試さずにはいられなかった。裾のラインが少しでも美しく見える角度を、試作の中で探り続けた。

模様がズレたときは、アイロンで温めて伸ばして調整するという、偶然見つけた方法に救われたこともある。装飾の接続に使った造形素材も、正解が見つからないまま、えいやと縫い込んだ。無理があるのは分かっているけれど、それでも形になったときの安堵は大きかった。

動くたびに美しくなる形へ

風が完成を教えてくれた日

このジャケットの核心は、静止しているときより“動いているときに完成する”という点だった。彼が歩くたび、ギャンブルのように揺れる裾。その軽やかさを再現するために、生地の薄さと重ね方を最後まで調整した。

山でのロケ撮影の日、自然の風を受けてジャケットがふわりと広がった。ボクが意図した以上に軽く、美しく揺れた。それを見たとき「ああ、やっと辿りついた」と感じた。

おわりに

完成したとき、姿見の前でしばらく動けなかった。宅コスでポージングを試すと、細かいラインの甘さやフィット感の不足も見えてきた。それでも、ひとまず合格だと思えたのは、鏡の向こうに“彼らしさ”が確かに浮かんでいたからだ。

改良したい部分はまだ残っている。それでも今の姿は今の姿で愛おしい。黒ジャケットは、ボクが技術を総動員して形にした“ひとつの到達点”であり、これから振り返るたびに新しい発見をくれる存在だ。部屋に吊るされたその姿を見るたび、作ろうと思った日の気持ちをそっと思い出す。

次章では、この中で語りきれなかった細部の工夫や、小さな失敗の積み重ねについて静かに掘り下げていくつもりだ。


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Notes

  • * 生地名・素材名は一般的な布素材の説明を前提とした注釈。

Yosure (ヨシュア)

衣装・造形・撮影・編集を一人で完結させる創作系デザイナー。実験ログとして制作の考え方と手順を記録しています。

記載内容はすべて筆者 Yosure の経験則です。 参考にするのは自由ですが、完全な模倣や一挙手一投足の再現は推奨しません。 あなたの創作には、あなたの判断と責任が必要です。